My life as an APE

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2006年09月
新潮社「博士の愛した数式」。レモンライムのような爽やかな読後感が残るが、思い返してみると何かが小骨のように引っかかり、物足りない。

●小骨1
ここに描かれる「博士」は良き教育者ではあるが、PhDとしての訓練を受けた博士のあるべき姿ではない。博士は数学雑誌の読者クイズに応募などしてはいけない。
「科学という魔物に魅入られた人間は、もっとなにか善悪の概念を超越した超常さを湛えてる存在である。科学に身を奉げる者の責務は、人類種の繁栄をこそ目的とすべきであって、その他すべての事象は些末であるのだ。」
↑といったマッドなメッセージ性を書名から想像して手に取ったのだが、ちょっと想像が飛躍しすぎていたようだ。

●小骨2
博士は子供に対しての深い愛情をみせるが、どうもその愛情のあり方と、博士の数学への愛情のあり方が、しっくりとこない。
子供の良さとは、発展途上でありながら、故に不完全なもの。つまるところ未来への可能性ではないかと思う。博士も自身の中に無垢性を垣間見せ、それと質の近い、子供の存在を愛しているのだと思われる。
が、同時に博士が見せる数学への愛は、どう見ても数学の完全性への愛だ。同じ科学を愛するにも、科学の「厳密性」を愛するのと、科学の「不完全性」を愛するのとは大きな隔たりがある。自分が仕事をしているコンピュータにたずさわる界隈でも、マシンの「厳密で完全で均整の取れたギリシア彫刻のような調和的なビューティーさ」が好きという人と、マシンの「とんでもなく適当で何とか動いているけど次バグ出たら耳の穴から手突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞ」という雰囲気を愛する人との間には分かり合えない溝がある。
果たして博士の内面に、子供の不完全性と、数学の完全性を同時に愛す余地があるのかどうか、自分には良く分からない。

他のお奨めの「博士もの」
・ビューティフルマインド
マッドであっても無問題。その明快な結末に感銘を受ける。日常とちょっと外れた日常の境目はとてもあやふやなのだという事に、改めて気づかされる。

・天才柳沢教授の生活
ここでの博士の科学的興味は、人間存在の不確実性に向けられる。科学を可能性あるものにさせているのは、単なる知識ではなく、科学的態度そのものなのだと思わされる。

・博士の異常な愛情
 登場人物全員が狂気に侵される中で、破滅的な結末を迎える物語。マッドさは、常識的な世界の中でコントロール可能な状態にあって、はじめてその価値を見出されるのだろう。

・ドクターモローの島
ドクターモローの研究は断罪されるが、それは本当に罪なのだろうか? そうではなく、人類にとって必要な進化の手順だったのではないだろうか? リメーク版は未見。


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Hak
カルフォルニア在住の最適化エンジニア。ゲーム機開発、ミドルウェア開発に携わる。最近はコンパイラ開発が趣味。子供二人。 Twitter
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